野菜よりも早く腐る商品

 私はせどりというビジネスがあるということを知るまで、本というものは「腐らない」と思っていた。しかし、せどりを始めて3ヶ月。最近では本は腐っていくものだ、ということを痛感するようになった。

 腐る、というのは価値がなくなる、ということである。アマゾンのマーケット・プレイスに出すと、その瞬間にどんな本でも価格競争に巻き込まれて、限りなく無価値に近づいていく。ライバルが価格を下げるので、負けないためには自分の手で商品を無価値にせざるを得ないのである。

 価値ある商品をせどってきたにもかかわらず、せどらーは全員「自らの手」で商品価値をどんどん殺していく。誰でもできる商売、価格が唯一のアピールである商売は、結局のところ行き着く先は「薄利多売」である。そして、誰もが採算割れギリギリのところに追い込まれて、働けど働けど儲からない事態になる。

 せどりというビジネスモデルはすでに知られすぎているので、先行者利益などとっくになくなっている。あとは体力と忍耐勝負のギリギリで生きていくしかない。何しろ、アマゾンに出した瞬間に値が崩れていくわけだから、野菜より早く腐っていくと言っていい。野菜は冷凍して商品価値を延ばせるが、アマゾンで売る古本は冷凍もできやしない。

 価格しか勝負するものがないのだから、ここから逃れる術はない。そのうち、ありとあらゆるものがすべて1円でしか売れないようになるだろう。これは極論だと思われるかもしれないが、今の動きから推測すると古本はアマゾンで1円で買うものだという認識になると思う。

 仮にそうなったらどうするか。たとえば、30万円を稼ごうと思ったとする。1冊に70円の利益だとしたら、簡単に見積もって計算しただけでも、4285冊売らなければならない計算になる。現実問題、そんな数を個人が売れるはずがない。

 しかし、この商売はそこに向かっているのだから、生き残れるのは在庫を山と持っている薄利多売に耐えられる業者だけになる。せどりは商品自体に付加価値を勝手につけるわけにいかない商売である。そもそも、あれこれ付加価値をつけようと画策した時点でアシが出る。

 そういう商品を誰もが簡単に参入できるような環境でやるわけだから、それはもうあっという間にダメになる商売であることは目に見えている。単純に、1ヶ月2000冊売る自信のない人は生き残れないだろう。ほとんどの人がクリアできないだろうから、ほとんどの人が生き残れない。せどりは、そういう方向に向かっている。